燦然たる黒歴史の溜まり場く(´(Å)`)ツルリ

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2017年05月11日の記事

あめにこまいぬ549回目/町編

あめにこまいぬ549回目/町編

終章3◆

二十九節〜大将は獏〜

 

 鮮やかな赤と黒のまだら模様でじりじり狭まる蛸の壁。お互いに腕を絡める様は荒波にも押し流されまいぞ、という陸をわざわざ歩いてきた水妖の気合が伝わってくる。真砂の大暴れが強い警戒を呼んだのは間違いない。獏は組織化された進軍に獏は強力な主の存在を確信する。真砂がやってこないのも、あちらの本陣と接触寸前だと考えれば合点がいきそうだが、派手な攻防の兆しは観測できていない。
突出した夕を迎え撃とうとそこだけ陣形がわずかに崩れている。周囲の蛸たちの数十体ほどが腕組みから離れて全速全身で不埒な小娘を絡めとろうと馳せてくる。俯瞰して眺めれば翼を広げた鶴が嘴を突き出した形。
 ろうとを鼓動させながら、足か手かわからないものをうねうねと揺らしながら身辺まで這いよってくる姿は遠目にも背筋が凍りそうになる。徒手空拳でもあれだけあれば凶悪な武器だ。器用に動く八本の腕か脚をごく単純に勘定すれば四人分の戦力。まとわりついてきそうなあれを刀ですぱっと斬るのは難しそうだ。
「初陣の夕さんの勇敢さを私が見誤っていたわ」
 夕に迫る蛸たちを狙撃銃で確実に狙い撃つ秋。眉間に見当をつけ放たれる銃弾を受けた蛸はびくんとはねて倒れる。踊りの余地すら与えず、鮮やかだった体色がさっと青ざめる。もとよりぐにゃりとしているがうずくまっていよいよ正体をなくす。もはや前進ができなくなりびくびくと震える砕けた体から青い血がとろとろ流れる。その打撃力たるや相当なものだ。
「あら。急所みたい。色が違うといっても血は駄目ね」
「急所じゃなくてもあんなもの浴びて大打撃でなければ嘘ですよ」
「ね、私は決して日和見な冷血じゃないでしょう。どうぞよろしく伝えてね」
「そうですね。ありがとうございます。ゆきずりで困っている下々の者にも快く力を貸してくれる優しいお嬢様です。蝸牛さんが起きたらお連れ様にお世話になりましたと伝えておきますね」
 そっちが本音か、と獏は思ったが感謝を伝えておいた。

 

 本来期待していた形にほど遠いが秋の参加が得られて抵抗らしきものできるようになった。しかし打開にまで至っていない。
「あの鎧もそうでしたが戦意高揚効果の調整不足、なんとかならないんですかね。向こう見ずに走っていっちゃったじゃないですか、おたんこさん」
 機関銃の放つ騒音にかき消されるのを期待しながら獏は不満をぶちまける。こちらは急所への射撃など考えの外、物量には物量で、壁を作って進軍しているところへ強力な銃弾をぶちまけて薙ぎ払っている。弾幕を張っても蛸軍団が撤退する兆しはない。あれだけ入っていた岡持ちぐらいもある銃弾箱は半分以下に目減りしている。一杯一発で綺麗に打ち分けでもしない限り足りそうにない。
「失敗を重ねないとよりよい武具は作れないものよ。なのりさん」
「犠牲に尊いもなにもないですよ。弾足りないです」
 少し離れた場所に陣取った秋が追加の弾薬箱二つを札から重たげに呼び出した。札がびりっと破れて中空に少し浮かんだ箱がずんと落ちる。
「数は少ないから上手く使って」
「変な本なんて読んでないで弾追加でもってきてください、おかめさん」
 暇そうにしていると思われたくのいちは指名を受けるもすぐに動かない。
「あわわ」
 くのいちは自分の腰が抜け、足が竦んでいるのに気づかず慌てる。遠眼鏡で目の当たりにした光景は衝撃があった。
「冗談でいっていた蛸があんなに群れでくるなんて。本気で拙いと思ってます。御戯れは戯画の中だけで充分なんです。実際、獣に触られるの大っ嫌いなんですよね。素肌を汚されるくらいなら私、舌を噛みます。夕さんの帯は猛女になれるんでしたね、私が絞めて大胆になれればよかった」
「遊んでないでおかめさん弾もってきてえ。箱、そこの箱。さっさとして」
 怒鳴る獏。おかめはおろおろしながら、手を突っ張ってよろよろ立つ。震える脚を叩いて叱咤しながら歩き、箱を片手でひとつづつ掴む。
「遊んでなんかないですようだ。重た。腰がやられそう」
 ふらつきつつ、獏の元へ向かう。


「戦局はどうですか」
「私に聞かれても。ああも集団行動しているとなると、付近で睨みを利かせる隊長がいるんじゃないんですかねえ。いてくれないと困ります。指揮系統を崩すなりして戦意を喪失させないと揉みつぶされてしまいそうです」
 聞こえるような大声で獏が喚く。
「え、なのりさん。先手の侍大将がいるとのお考えなのですね」
「いたらいいのになあ、というものです。わかりやすく手足に武器を握っていればなおよしですけど」
 遠眼鏡で展望してみるが目立った標的はいない。

 銃弾の雨にさらされてもじりじりと包囲網を狭める蛸たち。獏が打ち崩した両翼も後援がやってきて壁を塞ぐ。大技がうかと放てない至近距離まで接敵するつもりかもしれない。そうなれば蝸牛も寝てはいまい。寝ていても反撃ぐらいしてもらう。ただ彼が居眠りしながら自分以外の者まで守ってくれるか疑わしい。
「おかめさん、ちょっと蝸牛さんの車を押していって敵の前に置いてきてくれませんかね」
「ええっ私忍者ですよ。素肌を晒すの嫌です。肌焼けちゃう。武士と違って、遠巻きに匿名でがやがやいっているからいいのであって、最前線で踏ん張るのは向いてないんです」
「いえいえ。置いてくるだけですから。あのお寝坊さんも蛸にもみくちゃにされれば起きるか仕返しはするでしょう」
「ひどいわなのりさん。私の殿方を、きゃっ。いっちゃった」
 蛸をまた仕留めながらおませな発言に照れる秋。
 思わせぶりな言動で品物を売ってきた獏ながら嘘はいけないと思った。蝸牛が秋に手を伸ばさない理由が薄々わかる。悋気を焼かれたら眉間に穴があく。いや蝸牛なら剣士と野獣双方の勘で回避するかもしれないが。魔男魔女疑惑を向けられた相手はそうもいかない。


「大将、お下知を」
「責任負わされるのやですよ。しがない行商人なんですから」
「ましな受け答えできる人はなのりさんだけですもん。是非采配を振るってもらわないと」
「ついでに忍者の力で突出した夕さんを連れ戻してもらえますね。ぱっと駆けて帰る。戦いはなし、簡単でしょう」
「あの任務増えてますよ」
「蝸牛さんならやってくれそうです。私はお化け屋敷の地下で無悪無善の子分と戦っていたのを見聞していましたから」

「あの、他言無用で嫌わないでくれるのなら試してみたい術があるんですけど。初めてなので失敗するかもしれないし、でも妖気とか妖力というのがあればできそうだし」
「猫の手でも借りたいので、貸してくださいよ。でも暴走しちゃいましたっていうありふれた顛末はご遠慮ください、です」
「じゃあ本当に約束ですよ。嫌わないで友人関係でいてくれると」
「あれだけ下世話な雑談を振っておいて今更まだあるんですかね」
「忍者は生きて帰るのに手段を選ばないんです」

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