燦然たる黒歴史の溜まり場く(´(Å)`)ツルリ

誤字脱字発見有難いです〜グッドボタンに感謝〜

東海の記事

非常勤ヒーロー!蹴末:初陣! そして明日へ!

ヒーロー 

blog editon『sou』/原作・shanzhen

 

非常勤ヒーロー!蹴末:初陣! そして明日へ!

 

「ご苦労さん、ほらコーヒーでも飲むか? 遠慮するな。初仕事で何かと大変だろ」
「しかし」
「何、遠慮するな。その分これから頑張ってくれりゃいいんだ。まあ金が無い時は驕ってくれよな?」
「感謝します先輩。男気ですね。デカイ男には憧れます! いえ、外から見えるものじゃありませんよ。服の中に隠れている物がデカイに違いないと感じています」
 どうやら大袈裟でかえって馬鹿にされているのかと思ったが、彼は本気で言っているらしい。
「そうか、素直でいいぞ。肩の力を抜け、もたないぜ」
 先輩は気さくな男だ。ヒーローを連れての巡回を終えて河鴎大地(がおうだいち)は自販機の前でズボンに手を突っ込んで小銭を弄り、自販機に10円玉をジャラジャラと放り込み
ボタンを押す。
 ゴトリと缶が落ちる鈍い音が、静かなオフィスに響く。
『まいど〜』
「うお!?」

  自販機が喋ったのに驚いて、咄嗟にヒーローはファイティングポーズを取った。驚く後輩に大地は笑いながら言った。
「最近のは喋るんだぜ。すげーよな。おっ今日は当たるかな? 人生、こういうささやかな楽しみが欠かせないんだよね」
ランプが明滅して、当たりか外れかの抽選を始める。
「当たればもう一本。確変に入ればもっと出るぞ。ボタンを連打しろ! 連打すれば当選確率アップだ!」
 先輩に促されたヒーローは、摩擦熱が発するのにも構わずボタンを遮二無二に連射した。
職務用に手袋をつけているのが幸いした。ヒーローは魂を籠めて連打した。
「うおお!」
「お、おい。壊すなよ。適当でいいんだから」
『おおきに、もう一本やで』
「おっ、当った」
「うおおお! 勝利」

 結果、一本分の値段でコーヒーを入手した二人は守衛室に戻り、パイプ椅子に座った。
意気揚々と言うわけでは無かった。全て同じブラックコーヒーのロングサイズ。うかと同じ商品のボタンを押してしまうという罠に嵌ったのだ。
 ヒーローは苦いのが苦手だ。ついでに言うと辛いのも苦手だ。酒も弱い。しかしヒーローのテンションは覚めやらなかった。一人、狭い部屋で盛り上がる。
「これは俺がブラック・ムトウが苦手な天が遣わした使命だと言うのか! フフ、いいだろう。蟹は己の殻を打ち破って更に巨大になるのだ。先輩は、太くて長いのが好みですか! 俺は太くて短い人生が好みです! ずんと、腹に来る奴です」
「ギャンブルは辞めとけ。熱血とかなんとか言ってドツボに嵌りそうだ。うち安月給だし」
「男なら一つに全てを賭けます」
「いや、だから駄目だって」
 先輩としての忠告をした後、大地の顔が少し意地の悪い顔に変わった。

 怪談話。

 

 大地はこの手の話が得意だ。本人は霊の存在は信じていない。リアクションの大きいこの男なら、さぞ楽しいだろう。


「お前、知ってるか? 最近俺達の間で噂になってるんだけどよ……あのな」
「先輩の……苦いです……」
 ヒーローは頬を赤らめて上目遣いで此方を見てきた。

 大地は気持ち悪さにあらぬ想像をして少し蒼褪めた。ガタイの良い彼は何度かその気のある先輩に出くわした事があるが、幸い難は逃れている。
 この男は俺を誘っているのか? それとも本当に思わせ振りなのは天然の為せる技なのか。

 大地が好みなのはナイスバディのプリンちゃんだ。不自然な位に奥手でストイックな弟とは違う。

 大地は普通の男だ。
「……誤解を招くような発言は慎め。たく此方がビビらされてどうすんだよ。休憩したらモニターチェックと巡回な」
二人の男の夜は静かに更けていくのであった。

 

 再就職おめでとうヒーロー! 君の今後の活躍を願っている! 

 終劇。

「何ッ、襲撃だと! どこだ。俺の名前を聞いてみな? ヒーローさ。一介のヒーローですッ!」
「何だよ、行き成り」
「俺の感覚が何かあると告げています!」
 ヒーローは何か察知して突如活動を再開したが、急ぎ過ぎてドアに衝突した。 
 駆け出す彼に、先輩は抜け目なくモニターをチェック。頭の中のチェック項目リストにチェックを入れていく。
「で、どこが怪しいって? お前の虫の知らせも当るかもしれん」
「ええ、あの場所が、俺のヒーローセンスにびんびん来ています」
 ヒーローは該当箇所を告げた。
「こちとら警戒するのが仕事だからな、行くぞ」
二人は守衛室を後にした。

 

『人は誰しもが熱い心を眠らせた非常勤のヒーローである』――守田涼(ヒーロー)
 

「お前な……あの戦いは、いいんだよ。多分。見ない振りをしてやれよ」

 

 

<終>


 

 ある部屋のドアの前。ヒーローの言う通り、微かに女性の声が洩れている。

 大地は舌を巻いた。よくこの洞察力に乏しそうな男が察知したものだ。

 だが、気不味い。下世話な話になるが健康な成人男性にはあらぬサムシングな妄想を掻き立て兼ねない類の声だったので大地は怯んだし迷惑に思った。俗に言うお愉しみの所に出くわしても嫌なものだ。他所でやれと。

 だが、ヒーローは自重しない。そんな様子をおくびにも出さない。この微妙なニュアンスを全く理解出来ていないらしい。

「まだだ、俺の戦いは続くッ! 彼女はあんなに苦しみ、呻いているではないですか先輩。一方的な攻撃。彼を放置出来ない」

 彼の情熱が、ここで何事も無く終る段、パチスロでいう所の激アツ発展演出を呼び起す。

 ヒーローは悪を見逃さない。
 大地はヒーローの口を塞ぎ、部屋のドアに耳を近づけて小声で言った。
「お前な……あの戦いは、いいんだよ。男もダメージ蓄積してるから。見ない振りをしてやれよ。こっちも気不味いだろ」
「……俺に悪を見逃せと? 先輩は」
 どうやら、ヒーローは奇襲でもしでかすつもりになったのか、途端に音量を落とした。
「だから……物音立てるとかでそれとなく自重しろと教えてやればいいじゃんよ。デリカシーねえな」
「ほう。彼は犯罪をしでかし、バレルかバレナイかのスリルで燃えているのですよ!」
「表現的に怪しいし、お前鼻息荒い。仕事中だし、覗きとかアブノーマルなのは趣味じゃねえんだよ、こっちは。健全な青年なの」
「猛っていますから!」
「気持ち悪い奴だなあ。んな事いうなよ」
「もう我慢出来ませんね。突っ込みます。そして掻き回し、然るべき所に突き出す」
「ちょっと、何言ってんのお前」
 二人の会話は並行宇宙。意志疎通不能。互い全く違う想像をしているが、ヒーローの突撃シークエンスは勝手に進んでいるらしい。
「もういきます。止めないで下さい。中途半端は不快ですから。うおおおおおおお! ジャスティス!」
「お、おい、待てったら新人」
 ヒーローは怪しげな声が聞こえる部屋に呼吸を呼んで突入した。

 

 翌日の地方欄にお手柄・新人、『最近頻発のアベック窃盗を捕獲』のニュースが掲載されたのだった。件の男性を惑わせる声は、言ってしまえばブラフ、人避けの為に出していた。時代劇で忍者が悪代官の屋敷に忍び込んで物音を立てた時にする、猫や鼠の鳴き声と同義である。

 

 めでたくヒーローは非常勤から常勤となった。

 そして、これからの彼の活躍はまた別のお話――。


「いらっしゃいませー」
 歯並びも目付きも悪く、金髪でちゃらちゃらしている台詞棒読みの店員を、無愛想だなコイツと想いながら梨乃はコンビニで会計をしていた。

 買ったのは健康ドリンク。彼女はブランドバックや服、宝石等に興味は大して示さない。学校のジャージの着心地が好きだ。趣味は体力温存と健康増進である。

 好きな男のタイプはいきなり無人島に放り出されても、未曾有の災害に遭ってライフラインを絶たれても平然とサバイバル生活できる男。火起しと安全な水の食料確保が出来る事が最低条件。

 後、爆風で簡単にくたばらない男。

 見てくれは、ほどほどに気にする。ギンギンのマッチョは不可。みてくれだけの威勢は不要。


 無愛想な店員を見て、奥歯をガタガタ言わせて笑わせてやろうとも思ったが、やはり面倒くさいし疲れるので辞めた。血圧を上げると健康に悪いし、無駄な体力は使いたくない。
「197円になりますー」
 梨乃は財布から小銭を出す。二百円玉二枚、五円玉一枚、一円玉二枚。
 白いカウンターに出した時、梨乃は小銭を取ろうとする店員の手を止めた。
「何か?」
「百円玉」
「?」
 件のピカピカに磨かれた百円玉をポケットにしまい、代わりの百円玉を差し出す。
 店員は不思議そうな顔をしつつもこれまた棒読みで会計を済ませた。
「アリガトーゴザイマイタ」
 噛んだ。

「泰さん、こちらは終りましたわ〜」

 華奢な容貌でおっとりとした微笑を浮かべた美しい銀髪の女が、流暢な日本語でカウンターの店員に声を掛けた。棒読み男よりも発音がハッキリしている。どうやら、あの棒読み男は泰というらしい。

 

「ほな、おいらこれからコーヒー飲んで帰りますけん。ほい、ほい、峠は攻めへんて、ニアピンは通らんで、ストレートを帰るけん。ほな……なんや、愛しとるって♪」

 ドアをすれ違ったすらっとしたスーツの男が携帯片手に恋人らしき相手に愛の言葉を囁く。

 男の浪漫等に微塵の興味の無い梨乃はタイヤやガソリンの無駄だと思った。 

 

 梨乃は店を出た後、ポケットに入れた百円玉を取り出してみる。
「ヒーロー……か」
 ピカピカに磨かれたそれは店の照明を受けて輝いていた。 

 

<了>

この記事の先頭へ▲

非常勤ヒーロー!第13蹴:恐慌!通過儀礼

ヒーロー 

blog editon『sou』/原作・shanzhen

非常勤ヒーロー!第13蹴:恐慌!通過儀礼

 

「新入り、尻ばかり見てないで周りを見ろよ。その気があんのか?」
「俺はいい漢には惚れる質です! 惚れるに男も女も有りませんよ」
「気持ち悪い野郎だな。本気の眼をしてる所とか。そんな趣味はないからな!」
「同志になりましょう。そして、誰も見ぬ場所で悪を挫くのに一緒に燃え上がりましょう」
「だから、そっちの気は無いっての……ったく、社長の嫌がらせかよ」
 先輩を脅かす返答をしたヒーローは今晩、早速職務に就いていた。職務は深夜の警備。新入りとベテランの二人は懐中電灯で暗いフロアを照らしながら人気の無いオフィスビルを巡回していく。

 おやっさんは警備関係の仕事を請け負う会社の社長だったらしい。
 ヒーローを笑顔で送り出した後、彼は、独り言をぶつぶつ呟きつつソファに腰を降ろした。

 
「俺は人を見る目には自信があるんだけど、自信なくなって来たな。鉄板外したしな。推理の腕も」
「社長、気が散る」
「お、すまんね」


 電卓を高速で叩いている梨乃が間断無しに社長を咎めた。短い言葉は 一瞬、梨乃と年頃の娘の姿が重ならせ、なんとも情けない気分になった。そこまで神経質にならなくてもといいのではと思ったが、文句を言うのも器が小さいと揶揄されるのは癪だ。おやっさんもそんな肩身の狭い年頃である。
 大人しく、自ら熱い茶を煎れてズズと啜る。気兼ねなしに呑めるそれは美味しかったが、茶葉を節約の為、無意識に控え目に入れてしまうのが侘しい。

 

 彼は上手くやっているだろうか。おやっさんは、新人の行く末に考えを及ばせる。
ヒーロー願望に燃える青年を、引っ張ってきたのはあながち間違っては居ないとは思う。近頃は元気の無く、夢も希望も無い、無味乾燥の若者が目立つ。
 何を考えているか分からない。皆下を向いているからだ。暇があると皆うつむいて携帯電話という玩具を弄っている。おやっさんにはついていけない。
 娘がそれを使っていると、何か距離を隔てられている様な気がする。参観授業で『わたしのおとうさんは、みんなをまもるしごとをしています』と誇らしげに作文を読んでくれた頃が懐かしい。
 彼等とてそれは外見だけで、表情の奥には色んな思いがあるのだろうが、冷めているというかなんだか物足りない気はする。
 と言っても、ご時勢も悪い、夢を抱かせる様な物も少ない。社会が発展したのはいいが、当然それと同じく失った物もある。繁栄の後の停滞。人々が鎮火しかかっている。こんな時こそ、彼の様な迸る熱が求められているのかもしれない。こんな事を思うのはもう年だからか。


 この仕事は人や物を守る仕事である故に守るべき物に最も近い。彼が職務で得た内容で悪事を働こうと魔が差す可能性は低い。その点資質はある。多分彼は勇敢だ。
 ヒーローがこんにちワークに持参した履歴書には、食品偽装の内部告発で辞職に追い込まれたとある。正義だの、ヒーローだのと叫んでいる位だから正義感はあるのだろう。
おやっさん自身、世知辛い浮世で少しぐらいはと思った事もあるが、娘に胸を張れなくなる事を考えるといつも踏み留まった。
 有限会社緋色、零細だがヒーローに探られて痛い腹等は無い。

 
 問題は、ヒーローが『己の正義』に突っ走り過ぎる所。勢いは評価に値するが彼は少々ずれている、いやかなりずれている。心配だ。

 先輩をつけているといえども、あの男の事だ。何かしでかしそうな予感がある。
「あいつ、上手くやってっかな……根は良いんだろうけどなあ。どうもなあ……」

 

 お茶を啜りながらおやっさんは新人の初仕事にことつけて自分の頃はどうだったか思いを馳せる。
 そんな彼を現実に引き戻したのはタイムカード。従業員の退社を告げる音がチーンと鳴る。
 いつものごとく時間通りにきちんと仕事を終わらせた、帰り支度の梨乃が挨拶していった。
 若いのに、仕事は恐ろしく出来る。やる事はやる。だが、無愛想で口数も少ない。あの騒々しい男とは正反対だ。愛社精神の欠片もない。彼女は決してサービス残業をしない。余計な頼まれ事は御免とさっさと帰る。

 
「お疲れ様です。お先に失礼します」
「ご苦労さん。娘の誕生日が近いんだけど何やったら喜ぶのかねぇ?」

「……」

「ほら、年が近いからさ?」
「……現金」


 無味乾燥な返事が返ってきた。元も子も無い。
ガタン、立て付けの悪くなった扉が音を立て、彼女は退社していった。
「夢の無い子だ」
 おやっさんは白髪が混じり始めた頭をポリポリと掻いた後に、ふうと溜息をついた。
 

 おやっさんは心配しているぞ、ヒーロー?

この記事の先頭へ▲

非常勤ヒーロー! 第12蹴:三倍の茶

ヒーロー 

blog editon『sou』/原作・shanzhen

 

非常勤ヒーロー!12:三倍の茶

 

「で、倒すべき悪は何処ですか。おやっさん。俺は準備が出来てます」

 

 ヒーローの中で有限会社緋色の社長は既に『おやっさん』で定着していた。
彼的には『おやっさん、総司令、隊長』の三つが最終候補に残っていたがおやっさんに決定した。
どうしてヒーローが『おやっさん』になったかは誰も知らないし、考えない。 寧ろ、どういう思考経路でその様に至ったかの方が疑問だ。

「どうぞ! 魂をドリップした粗茶です」
「お、おう……」
 抹茶かと思わせる色合いの茶に社長……いや、おやっさんは気づかない。お茶パックでの煮出し式の物で誰が間違いを起こすだろうか。

「ブッ」
 安全確認を怠った彼はヒーローの初仕事に顔を顰めて溜まらず噴出した。茶が濃く渋い。三倍に薄めて普通に飲めるという濃度で煎られていた。
 おやっさんは大いに憤慨した。

「濃いぞ。お茶パックがあったろうが」
 だが、ヒーローは全力で何かをやり遂げたかの様な爽やかな顔でハンカチを差し出した。その後、自身に満ち溢れた口調で、拳を振りかざしながら経緯を説明した。
「楽をせず敢て、茶葉の計量に挑戦しました。茶とのやり直しの聞かない真剣勝負でした。お茶葉を掬い過ぎたきらいはありますが……やり直しは茶葉への礼儀に反する。熱々と煮え滾る湯を浴びせて、ありのままの己を表現しました。俺の魂の熱さを汲み取って下さい!」
「書道じゃねえぞ、舐め……」

 思わず舐めてるのかと一喝しそうになったおやっさんは危うい所で堪えた。若い頃ならば兎も角、おやっさんは管理者として感情の激発を抑えた。
 詰問しようとしておやっさんは立ち上るのを堪えて、苦笑いでヒーローの顔を見た。カッと見開かれた瞳に一点の曇りも無い。威風堂々たる面差しが熱視線を送ってくる。

 
 この男は良くも悪くも“冗談抜きの本気”だ。全力で他人とは違うベクトルに力を注ぎやり抜く男。無駄の欠片しか無い。どういう育ち方をすればこうなるのか想像が出来ない。極上の鰻重を食わせるという強引極まりない既成事実を作った上でヒーローを引っ張ってきた流石のおやっさんすらも、漸くこの男に底知れない恐怖を抱きつつあった。
「今度から、その程度の失敗には目を瞑ってやる。やり直して出来ればいい。次からそれを忘れるなよ。ああ、そうだ。お前、米は研げるか? 最近の奴はやった事ないらしいよな」

「フフフ……」

 良くぞ聞いてくれましたと言った風にヒーローは笑う。
 おやっさんは心の中で怯えた。最近の若者は米を洗剤や湯で洗ったりすると聞いている。絶賛思春期の娘を持つおやっさんには、彼がずれているのは世間知らずで苦労知らず、そして経験の絶無故で、羽目を外しやすい質でもその程度だろうと鷹を括っていた。

 果たしてヒーローは武勇伝を語り始めた。
「母に、米を研いで漱ぐ際に“研ぎ汁が濁らなく迄続けるように”と言われましてね。一晩中、全力を掛けて研いでいました。いやはや、一粒の米には七人の神様が宿るといいますが当に例えて妙ですね。生半可な気持ちで研ぐと、一向に濁りが取れない。分かるんでしょうね、神様にも。俺は三日三晩でも米が根を挙げる迄やろうとしたのですがね。悔しいかなドクターストップですよ。」
「おい、そりゃ研いでるんでなくて力入れすぎて潰してるからそうなるんだろうが。
親父さんは何か言わなかったのか?」
「父は言いました。『男ならぶっ倒れる迄やり通せ』とね!そして、『炒めろ(チャーしろ)!』と」

「あの、飯代はいいから、かえ……いや、なんでもない。男なら借りは返せよ」

「ええ、勿論。全力を賭して」

「いやほどほどの力でいいよ。お前に関しては」 

 帰ってくれと出掛かったおやっさんを引き止めたのは3500円の痛手であった。給料は娘と妻のに消える。娘や妻はどうせすぐ飽きるのに流行の物となればなんでも眼を輝かしては経済効果を生み出している。だが、おやっさんのなけなしのポケットマネーには厳しい損失。追い出すにしても損失分は必要経費で落としたい。
 おやっさんはヒーローの事を完全に無視して作業に戻った梨乃(りの)の様子を窺った。氷の眼で精密機械の的確さと迅速さで事務仕事をこなしている梨乃に声を掛けた。

 おやっさんもこの娘は苦手だ。


「あの」
「責任取って下さいね」
「……おう」

 一縷の望みは短い言葉で終わった。経費は認められないらしい。
 発言は大仰だが一分の隙も無い彼女に取り付く島は無い。有能な彼女に臍を曲げられでもしたら代わりを探すのに随分と骨を折らねばならなくなる。眼前の応接ソファで周囲の様子を窺っている極めて不器用で取り分けて一途な男に給料分の働きをさせる必要に迫られた。

 業務内容をヒーローは全く知らないが、ありあまる熱意をあるべき方向(ベクトル)へときちんと誘導してやりさえすれば 、この男も戦力になるかも知れない。俺がこいつを一人前の社会人に仕上げてやる。 おやっさんは悩んでも仕方が無いので、建設的な思考に切り替えた。己に気合を入れる為におやっさんはよし! と大声で叫んだ。最近百円で買った自己啓発のハウツー本にもそう書いてあった。叱るだけではなく部下は褒めて意欲ものばせ、と。どなるだけで出来る様になった部下は、きちんと教育したとは言えない。問題児を心身共に一人前の仕事人にしてこそ、本当の上司であり、男なのだと。

「よし! 今から仕事内容を説明する。一緒にいい仕事しよう……ぜ?」
「勤勉勤労弛まぬ努力で世に報う 我等〜我等の緋〜色♪ ヒーロー!」

 ヒーローは先ずは形から入るとばかりに古ぼけた社歌を覚えようと熱心に歌詞を口ずさんでいた。こういう所には無類の暗記力と即応力を持ちあわせているのだった。全力で非効率な男。

ヒーロー、力を入れるところが違うよっ!

この記事の先頭へ▲

非常勤ヒーロー!第11蹴:結集!緋色の御旗

ヒーロー 

blog editon『sou』/原作・shanzhen

非常勤ヒーロー!11:結集!緋色の御旗

 

「うおおおおおお! 燃える」

 ヒーローは雄たけびを上げた。
 やっと彼は、苦難の果てに魂が揺らぐ場所へと辿り着いた。移動中は半分寝て、半分妄想に身を焦がしていただけだが。 
「是は悪の目を欺く為に敢えて、今にも倒壊しそうな建物に秘密基地を築いたのですね。ええ、そうですね。地上は喫茶店アモーレ、地下には指令本部と気合と勇気と愛で強くなる、未知のエネルギー源で動き、無敵の装甲に身を包んだ秘密ロボを格納する広大なジオフロントがあると。有事に際しては敢然と悪に立ち向かう、拠点となる、そうですよね! 俄然盛り上がって来ましたよ」


「いや、盛り上がるのはいいんだが、生憎そんなもんは無いぞ」
 男が引き気味に答えるもヒーローは気にしない。ヒーロー曰くスーパーハイテンションモードに達しつつあった。これは先程の夢物語ウォーミングアップになったのだと、後付設定を持ち出した。
 どんな高額の布団も嬉々として契約書に署名してしまいかねない状態だ。 気持ちが大きくなっている分、危険だ。だが、攻撃力増大で防御力激減という展開は彼のテンションに油を注ぐ。要は走り出したら止まらないのが彼の持ち味なのだ。標識すら見なくなり、下手をすれば前すら見ずに妄想を抱いているのだが。車の運転をなるべく頼みたくない部類ではある。
 ヒーローが『秘密基地』と呼んだ建物は先程通った商売敵の森アーキテクチャと比較した場合、まさに月と鼈の体であった。比較するのすら気の毒かもしれない。

 コンクリートで出来た二階建ての事務所は経年劣化でくすんでいる。
 加えて黄緑色のペンキで塗られた金属製の階段の手すりも塗装が?げかけている。
「老朽化した我が母校を想起させます。ですが是も世を忍ぶ仮の姿なんですよね。む、むむ!? こ、この看板は……」
 事務所のドアに手を掛けたヒーローが右手に飾られていた看板を凝視した。
 有限会社緋色。


 黒地に金字で作られた年代物の屋号プレートが手動扉の隣に堂々と掲げられている。ヒーローの反応は劇的であった。反応というよりは電撃でイグニッション、そして大爆発、エクスプロージョンと言った方が正しい。 昔、ある著名な芸術家が言った様に、文字通りの熱情の爆発である。

 

「緋色……ひいろ……ひーろ……ヒーロー!  ヒーローだとお。何という運命の導きよ。おおお……おおおお……おおおおおおお! うおおおおおああああああああ! ぬおおわあああああ!」

 感動で後半は言葉の体を為していない。 

 

 興奮と感嘆の余りに、男はうろたえた。だが、男もこの名前に相当の思い入れがあるらしく、彼の熱気が伝染した。ヒーローの感激の理由を見事に、彼譲りの超ポジティブ思考で勘違いし、気分上々、顔を紅潮させて薀蓄を語り出す。普段は誰も聞いてくれないからだ。
「おお、お前もシャーロッキアンの端くれだったか。
その通りこいつはかの文豪ドイルの『シャーロックホームズ』シリーズの最初の作品に因んでるさ。俺は餓鬼の頃読んだホームズ児童文庫が大好きでな……乱歩の二十面相シリーズと一緒にそりゃあもう、ドキドキしたもんだぞ」
「ヒーロー! ヒーローおおうううわあああ!」

 ヒーローは聞いていない。 
「俺にとってホームズはヒーローなのさ。ここはベイカーストリートさ!」

 男も聞いていない。 
「……お、おやっさんと呼んでもいいですか! 俺、そう呼ぶ人とめぐり合うのを楽しみにしていたのですよ!」
「おう、いいぞ、呼びたまえ。ワトソン君」
「お、おやっさーん!」
「モリアーティ教授等は滝壺にコナクソ、コナクソ。森アーキテクチャも一緒に株下落しちまえ!」

 噛み合っていないが、それはそれで二人は幸せだった。
「悪の首領ですね。奴を倒す為にクレーンに吊るした鉄球で特訓しませんか!」

「鉄球で奴のビルを破壊する……って予告が来てるのか、これは俺の出番だぜ」 
 二人は同じ三次元世界に居ながらにして心は互いに違う世界に居た。妄想銀河の織り成す平行宇宙。交わっているのか交わっていないのか。
 互いが異なる思惑で発言し、更に曲解して次の言葉に繋がっていく。その大騒ぎに呆れた社員がドアを開放したまま唾を飛ばし合う男二人を見咎めた。
 口振りは鋭くて冷たい。
「蚊に払う空調費はない。毛むくじゃら社長……あ」

「あ」


「あ?」
ヒーロー、守田涼は彼女と目が合った瞬間にあらゆる部分が硬直した。彼の目の前に居たのは、彼を土をつけた女だった。

「うおおおあ……うおおおああ!?」

「……」

 ヒーローは頭を掻き毟って悶え苦しんだ。屈辱は黒歴史として封印した。だが、彼女を(一方的に)慕う愛の心が封印をこじ開けようと暴れる。
「ク……秘められた俺の過去が……ウオオオ……頭、頭があ……黒……黒色」 
 絶対零度の凍結視線で睨む女性に向かって男は言った。

 
「梨乃(りの)ちゃん、こいつは俺の金で3500円も食った奴でね。新しく此処で働いて貰う事になったんだよ。 キッチリ働いて、耳を揃えてニコニコ返済して貰う。先払いで利息無し、働きたいのに働き口が見つからない若者を救ったと、どうだい良心的だろう? ワトソン君」

 梨乃と呼ばれた女性は、フンと鼻を鳴らして自分の机に戻っていった。
「おお、俺は思い出した。君はあの時の……二人の再会は当に赤い糸で結ばれた運命と言う他は無いのだぞ!」

 
 脳内でラヴェルの「亡き王女のためのパヴァーヌ」が壮大に演奏される。ヒーローは二人の出会いと別れ、そしてまたぞろ、再会迄の波乱の記憶を捏造していく。
「デュワー!」 

 一瞬の内に敵役が三人、跳び蹴りで仕留められた。
 ヒーローは奴等から本拠地を聞きだし、死闘の末に基地に単独で乗り込み首領を打ち破る。そして悪の首領に捕えられていたヒロインが基地最深部で十字架に架けられているのを発見した。
 寄り添って脱出する二人の後ろで悪の城が炎を上げて消え去っていく……。
「俺の胸で泣くがいい。俺も君の温もりに凍った氷が溶けていく様だ」

 

 達磨を抱きしめて夢想するヒーローにヒロインは口を開く。笑顔だ。

 なんと美しいと、ヒーローはうっとりと見蕩れた。どんな感謝の言葉が貰えるのか胸をときめかせて待ち受ける。

「さっさとお茶汲んで来いよ新入り」

 

 これが先輩と後輩の関係だね、ヒーロー!

この記事の先頭へ▲

非常勤ヒーロー!第10蹴:衝撃! 改造手術

ヒーロー 

blog editon『sou』/原作・shanzhen

非常勤ヒーロー!10:衝撃! 改造手術

 

「さてと、行くか」
「戦いにですか!」
「ああ、まあそうだな。うーん。拾ってくる奴間違えたかな」
 男は初めの勢いはどこへやら、ヒーローの鬼気迫る様子を目の当たりにして勢いが尻すぼみになっていった。
 もしかすればとんでもない物を拾ってしまったかもしれない。なにしろこんにちワークの前だ。
 敗者復活戦に賭けた男女が集う場所ではあるが、正直今回は直感に頼った感がある。根性は悪くない筈だ、根性は。長年の経験で分かる。眼の光は悪くなかった。ぎらつく何かがあった。
「フフフ、ご馳走頂いた御蔭で、少しまどろんで儚い夢を見ていたようです。哀しきヒーローサーガを」
「そうか……」
 空腹故の眼差しだったのか。
 とにかく男は思った。俺は嫁さんを直感で選んで、果たしてどうなったかを。


 ヒーローはは秘密基地ならぬ、男の職場に辿り着いた。
 どれくらいの時間が経ったのかは分からない。ひたすらダークヒーローについてのイメージトレーニングに勤しんでいたから。正直ここがどこなのかも定かでは無い。土地勘も無い。
 二人は駐車場に軽トラックを止めて歩いていく。視線を埋めたのはビル。彼は胸を反って僅かに青がかった美しい窓が並ぶそのビルを仰ぎ見た。ピカピカだ。
十階以上はあるに違いない。まだ完成してから間もないのだろう。
「なんと、まさかビル持ち大名だったとは……毎日駆け上げれば体力がつく」
 男は少々慌てながら、早くも妄想を始めたらしいヒーローに訂正を入れる。
「あ、いやお前これは違う。これはモリアーキテクチャのビルだ。商売敵。俺はここにふんぞり返っているバーコードを引き摺り下ろす為に日々汗水流している。糞、ちっとばかり名が売れたからってこんなけったいな銅像作りやがって!」
 ビルの入り口には創業者と思われる男の銅像が強い存在感を放っている。厳しい中にも優しさが感じられる。空をきっと見つめる細い眼に、高い鷲鼻が特徴的な顔は少々日本離れしている。
髪の毛は……男の言葉とは逆にふさふさとしている。無論髪もブロンズ、ズレ落ちない。

「いくら好敵手だからと言って、不遜に貶めてはいけません。己の格が落ちるだけですよ。やはり良き好敵手がいればこそ男は伸びる」
 ヒーローは臆せず年上の男を嗜めた。男は知った気な若造に少しカチンと来た。年頃の娘に五月蝿い五月蝿いと言われて加減しているのだ。
「何でも額面通りに受け取っちゃなるめえぞ。人を見かけで判断すると痛い目見るぜ。、こいつはズラを被せただけで飽き足らず三割り増し位美化してあんのよ。ほら、ファミレスのメニューよか実物が小さいのも、キャバレーのねーちゃんの写真がモノホンよか美人だったりするだろう。それと同じだよ。嘘大袈裟紛らわしいじゃろ」
「メニューが大きく掲載されているのはですね、お子様からお年寄り迄が見やすく分かり易いように
作られているからです。女性ならば容姿を磨くのは虎が爪を研ぐが如く自然な事です!
それで見誤るというならば……単なる己が修行不足だっただけの事、クッ」

 ヒーローは思い当たる節があるのか悔しそうに拳を硬く握り締めた。

「……」
 男が想像した様な物とは違う。
 ヒーローは先日、判断を見誤ってC級映画のビデオを借りたばかりであった。熱いヒーロー物だった筈が、彼が待望する熱い戦いはやって来ない。
結果開始数分で心地よい眠りに襲われ、早過ぎる朝を告げたのは騒々しい巻き戻し音だった。
更に返却期日を1日誤っていた彼は延滞料金と言う名の勉強料を支払う羽目になった。
やり場の無い、この遣る瀬無い感情。ジャケット借り、失敗。

 脳内でニューロンを一途に刺激しベートーベンの悲愴第二楽章を自動再生させる。

「人は失敗を繰り返して大きくなる」 
「お前なあ。まぁいいさ、ついて来い」

 

 男は巨大なビルの隙間にある日が差さない路地を縫って進む。雑草がアスファルトの舗装を突き破って繁茂し空調の排気熱が気温を上げている。
「一つ、つかぬ事をお聞きしますが、よろしいでしょうか?」
「何だよ。遠慮せずに言え。意思疎通、打ち合わせは大事だ」
「もし、このビルが悪の秘密結社の隠れ蓑だとしたら、非道な人体実験が日夜行われ……」
「お前さっきと言ってる事が矛盾してねえか? どこ見てるんだよ」
「悪とは往々にそうしたものですよ。巧妙に正義の裏に巣を作って繁殖します。まるでがん細胞のようにですよ! だが決して俺は諦めない! 例えいたちごっこになろうとも俺は悪を憎む。悪を食らう悪となっても俺は業を背負って奴を討つ」
「そうだな、お前がこれからする仕事はうってつけだぞ、ヒーロー」
 適当に相槌が入ったがヒーローは気にしない。マニュフェストを高らかに謳い上げる。ヒーローと呼ばれた分、いやがおうにも熱弁はボルテージを高めて唾を飛ばす。野良猫が迷惑そうに、にゃーとささやかな抗議の声を挙げ走り抜けて行った。

 やがて何処までも続き、異世界へと通じていそうな細路地の視界が急に開けた。
「おお、これは……」


路地を抜けてヒーローが目にした物とは!

この記事の先頭へ▲

お名前メモする