タルティーン司令部戦略課室長日誌

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2014年04月21日の記事

白ゆき姫殺人事件

だいぶ日が経ってしまいましたが、日、『白ゆき姫殺人事件』を観てきました。

 

白ゆき姫殺人事件
http://www.shirayuki-movie.jp/

 

メッセージ性が豊富にして重厚。

 

本作は、そのタイトルからも想像できるようにミステリ、いわゆる推理モノと呼ばれるジャンルになります。
主人公はテレビ局で映像ディレクターとして勤める派遣社員。しかし正直言って、よくこんな輩が派遣されて文句のひとつも出ないなぁと思うような、仕事中にTwitterばかりしている男です。
物語は概ね、この赤星雄治の視点で展開されます。そして多くのミステリで主人公が探偵役を務めることによろしく、本作でも彼が探偵役となります。

 

そして、本作のひじょうに特徴的な要素として、この赤星も利用しているTwitterがあります。
先述のように赤星は仕事中にも頻繁にツイートしています。彼はテレビ局の人間である故に、放送や取材に関する情報を知っていますし、彼自身も取材や制作を行っています。
知られているようにTwitterはごく短い文章しか書き込めませんから具体的な内容をつぶやくようなことはありませんが、しかしそれでも端々が漏洩していくことになります。
これによりネットに拡散していったり、彼のツイートに返信が付いたりしていきます。

 

いつしか、こうした情報は一人歩きするようになり、事件そのものにも影響を及ぼすようになっていきます。
そう、本作はミステリというよりも、ネット社会とプレスとを描いた社会派の映画作品なのです

 

もちろんミステリとしてもしっかりしています。
しかし、多少ネタバレになりますが、多くのミステリにあるものが本作には登場しません。最後までひとつも登場しません。

 

「あるものって?

 

彼は探偵気取りになっていますが、別に警察官でも無ければ私立探偵でもありません。
また、報道部の記者ではなく、飽く迄もバラエティ番組のADです。従って、物的証拠を手にすることがありません。ただひたすら、取材した相手の証言等から推理していくだけです。
よく勘違いされている方がいますが、「推理」という言葉は飽く迄も読んで字のごとく「理を推しはかる」という意味でしかありません。基本的に多くのミステリには「推理」と「証拠」はセットで進行し、決定的な証拠を見付け出すことで真実の解明に到るのです。
ですが本作にはそれがない、ということは、勘の良い方ならばお判りでしょうが、彼は最後までその推理の決定的証拠を見付け出せません。

 

事件は、ある石鹸メーカの女性社員が山林で殺害され、死体を焼かれた状態で発見されたというものです。
そして赤星は、この被害者の同僚を知人に持っており、その繋がりから事件への関心と、自らのツイートによる反響とで本件の独自取材を始めていくことになります。

 

 

以下、ネタバレを含みます。

 

 

かようなミステリであるため、基本的に証言しか出てきません。また、その裏取りにしても矢張り証言に留まります。
証言者はそれぞれ、実際に目撃したもの思い込み自らの保身等が絡み、虚実の混じった発言をしていきます。

 

「自らの保身って、
 犯人以外に何を保身するっていうの?

 

人が嘘をついたり本当のことを隠したりするのは、何も犯罪に噛んでいるからとは限りません。
例えば愛人関係があったとすれば、これをおもてには出したくないと考えるでしょう。また、そうした関係には到っておらずとも、余計な噂の立つことや詮索されることを嫌がるということもあるでしょう。
それに、仲の良い者同士は、その相手を悪くいうことをしないでしょうし、弁護もするでしょう。
逆に、あまりよい印象を持たない相手のことは、無意識のうちに実際よりも悪く口にすることもあるかもしれません。

 

従って、単に「誰が嘘をついているか」ではなく、「この証言のどれが事実で、どれが嘘(ないし思い込みや大袈裟な表現)か」を見抜けるかが、本作のミステリを解く上での鍵となります。ぶっちゃけ、登場人物の全員が、虚実織り交ぜで話をしています。
証言をもとに進行していくタイプのミステリに慣れている人は、割と早い段階で重要参考人となりうる人物の目星を付けられるのではないかと思います。

 

実際、赤星にはその機会がありました。
彼自身、狩野への取材の際、彼女が犯行の段取りについて話をしたとき、「それ、想像だよね?」と訊いています。
この時点では狩野は容疑者ですらありませんから、飽く迄も赤星は純粋に狩野の「推理」として話を聞いています。そして、根拠となりうるものもない段階に於いては、それは「推理」ですらなく単なる「想像」です。
どのようにして犯罪が行われたか、具体的な段取りが語られても、そこに真実味はまだ無かった。狩野も、赤星からの突っ込みによってそのことに気付きました。
このときの彼女の微妙な反応を見逃さないか、或いはこの証言や「想像」の裏取りに向かえば、赤星は方向性を誤らなかったのかもしれません。

 

 

しかしそれはミステリとして本作を捉えたときの話です。
ですが、本作はミステリとしての顔だけではなく、社会派映画としての側面もあります。むしろ、そちらの顔のほうがメインではないかとも思えます。

 

それはネットとプレスに対する痛烈な批判です。
赤星勇み足な取材と、暴走した「推理」によって、虚実織り交ぜの番組が出来上がり、これにより関係者周囲の人格、尊厳を大きく傷付けました。
これに呼応したツイートの連中もまた同罪なのですが、彼らはそれに気付かず、プレス批判と、次のネタ探しに奔走するのみです。

 

 

でもですね、私はもっと上の視点から考えてみたいと思うのです。

 

「上の視点?

 

恐らく、本作を観た人たちの感想は、大きく次のつのいずれかになると思います。

 

ひとつは、劇中のツイートを行う者たちに感情移入し、プレス批判の映画として論じる者。
ひとつは、プレスにもネットにも批判を向けた作品として論じる者。
ひとつは、これらの批判に苛立ちを見せる者。

 

「それで?

 

でも、それらは本作を社会派映画作品として捉えた場合、中途半端な考察でしかないのではないか、と。

 

話をわかりやすくするために、そのつのタイプのうちのつめを例に挙げますが、恐らくこれに含まれる人は、概ねプレスの人間でも無ければTwitterを利用しているユーザでもないでしょう。ひょっとしたらインターネット自体にも否定的で利用していないかもしれません。
或いは、利用していても、或いは、プレスの人間でも、自らは気を付けているので関係ないと考えているかもしれません。
或いは、関係があるかもしれないが、だからこそ気を付けるべきだと常に意識している人かもしれませんね。

 

「うん、それで?

 

しかし、本作ではプレスやTwitterという媒体が、いわば「小道具」として登場したので、それらを認識することができるのですが、かようなケースに到る媒体、或いは行動は、何もこれらに限ったものではないんですね。

 

本作では、赤星という固有のキャラクターが、盲目的になり、人を傷付け貶めるものとして具現化して表現されているわけですが、先述のつ止まりの人もまた、そこで盲目的になっているのだと気付くべきなのではないか、と。

 

「シオンさんはそれに気付いているから大丈夫だと

 

違います。
大丈夫だ、などと考える時点で盲目的なのですよ。
或いは、気付いてもなお見えていないものがあるのかもしれない。

 

残念なのは、こうしたメタな次元まで論じた、本作の評がまったくと言っていいほど見られないということです。
誰もが本作のプレス関係者になるし、Twitterユーザになりうる。“赤星”になりうる。そのことを論じていません。

 

 

赤星ばかりではありません。
容疑者とされた城野。彼女にも、誰もがなりうるのです。

 

赤星が方向を見誤らずに済みうる機会が一度あったことによろしく、城野にもあそこまで状況を悪化させずに済みうる機会がありました。
芹沢ブラザーズ雅也を転落させてしまったことは不幸な事故、そして、動転した彼女がその場を逃げ出してしまいホテルに閉じ籠ってしまったまでは、その良し悪しは別として、仕方がないと言えなくもありません。
冷静でいられる人がどの程度いるか。少なくともこの時点での、彼女の行動を批判するのは、そうしたことを棚に上げた発言まように思います。

 

ですが、それから数日間、彼女はホテルの部屋から出てくることは無く、その間に赤星の暴走が進み、状況は悪化の道を走り続けました。
この、どのタイミングでもいい。彼女が警察に相談もしくは出頭すれば、その瞬間に鎮火した話だったのです。
何故ならば、この事件に於いて、当事者たちしか知りえない情報を持っているのは被害者の三木、真犯人の狩野、容疑者である彼女城野人しかいないからです。

 

そして、ここで最初のほうで触れた、通常のミステリにはあって本作にはない「物的証拠」というものが大きく関わってきます。
警察は、物証を持っているのです。故に、城野の証言の裏取りができる存在だったのです。
城野が出てきて、彼女の証言が出てきて、それが警察から発表されさえすれば、瞬く間に鎮火しえたと言えるのです。
もっとも、そのタイミング如何によっては赤星への批判は変わらなかったかもしれませんが。

 

 

先ほど、誰もが“赤星”になりうるし“城野”になりうると書きました。
“赤星”“城野”になりうる故にどのような態度が必要なのか。それを考えることこそが、本作への感想になるのではと思いました。

 

 

 

 

 

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